変態ですみません 1 浮気
「何時に終わるの?」
「七時ぐらい」
「わかった。待つ」
朝の子ども、朝子と書いて「ともこ」と読ませる彼女とは、こうして会話をするようになって二週間ほどしか経っていない。それなのに、妻の百恵との会話よりも何倍も話をしている。とうとう会社にいるとわかっているのに電話をしてきて、なおかつ会いたいと言ってきたのだ。
丸夫は自分が浮気をする男だとは思っていないのだが、同時に、男は浮気をする生き物だとはわかっていて、「なるほど浮気ってこうやって始まるのか」と感じている。
六時半に仕事が一段落したので、「お先に失礼します」と声をかけ、静かで落ち着いた社員十四人の小さな出版社をあとにする。
東京大学に近い本郷の雑居ビル。最寄り駅は地下鉄丸の内線の本郷三丁目か、都営地下鉄の本郷三丁目だ。南北線の東大前駅は少し遠いのでほとんど利用したことはない。
ビルを出たところに、朝子がいた。誰かと電話をしている。今日はフリルのたくさんついたレモンイエローを基調としたワンピースに、白いストッキング、底の厚いサンダルといったかっこうで、身長百五十センチほどなのに充分に目立つ。
やや気恥ずかしさを感じながら、手を振ると、朝子は撮影でもよく見せる笑顔になって、ゆっくりと丸夫についてくる。
会社の人たちはいまオフィスに全員いるから目撃されることはない。とはいえ、誰かに見られる怖れもあるので、関係がありそうななさそうな微妙な距離で歩く。歩道が狭いのでどうせ一列でなければ歩けない。
黙って交差点を渡り、後楽園方向へ降りて行く坂へ。
「ごめんなさい」と彼女は言い、電話は終わったらしくスマホをひまわり柄のビニールバッグに押し込みながら、丸夫のすぐ横に来た。歩道は楽に並んで歩けるほど広くなった。
「どうしても相談したいことがあって」
飲食店、酒場は多いもののいわゆる喫茶店は減っている。貴重な老舗のカフェに入る。老舗といっても明るく入りやすい。
「わたし、コーヒー飲めないんです」
「そうだったっけ」
オレンジジュースを頼み、丸夫はホットコーヒー。彼は夏でもホットコーヒーを飲む。
「相談って?」
「正直、やっぱり丸夫さんとしたい」
朝子はきっぱりと言う。
丸夫は思わず店内を見渡す。近くにほかの客はいない。
「ぼくたちのことは知ってるよね?」
「もちろん。百恵さんとも会ったことあるし。ビッグサイトで」
何度か会っていると言っても、それはほとんど通りすがりのようなもので、同好の士として共通の知り合いがいてのことだ。売り場が近いとか、そんなことだっただろう。それも数年前のことで、朝子はいまとはまるで雰囲気が違っていた。
「しなくても、できるよ」
「だめですよ、しなくちゃ。わたし、覚悟決めたんで」
勝手に決められても、と丸夫はただため息をつく。
四十になろうというぼんやりとした男と、ピチピチした小柄な女子。身長は低いが、胸のあたりは小玉スイカでも抱えているかのように膨らんでいる。
「不倫じゃないから、いいじゃないですか。遠慮しなくていいですから」
朝子はたたみかける。
「だって、おかしいですよ、わたし普通のモデルがしたいわけじゃなくて、変態プレイをするのが目的だし、その相手が誰だって大きな問題じゃないし、丸夫さんならぜんぜんオーケーなわけで……」
丸夫はコーヒーを飲みながら、彼女の声をどこか自分に向かって放たれていないように聞き流す。
「……どんなことでもできるし。あ、オーケーってのは軽く見てるとかじゃないです。むしろうれしいし。あ、うれしいというのもそういう意味じゃないです。恋愛感情ないですし。だからって、丸夫さんの作品みたいに公衆便所は怖くてできないし、そういうプレイはできればイヤだし……。あ、このプレイはいい、このプレイはイヤだとえり好みしているわけじゃないけど、やっぱ病気とか怖いし、まだ死にたくないし……」
いろんなことを言うな、この子。丸夫はそう思いながらただ眺めていた。
たしかに娘といってもおかしくない年齢の朝子とセックスをすれば気持ちいいかもしれない。彼女が変態なら、自分も変態だ。小説にはたっぷり変態な人々のことを書いてきた。百恵はそれを理解してくれて、ソフトなプレイをしてきた。百恵のその姿を表紙などに使い、SNSでの宣伝でも使ってきた。写真は上手ではないものの、シロウトっぽさが味になっていると丸夫は思っていた。そう評価してくれた人がいたからだが。
「だから、百恵さん公認ってことで……」
よくしゃべるなあ、と丸夫は思う。
こういうとき、みんなはどうしてるのだろう、と想像する。結婚して四年になる妻がいて、お互いに変態であることは理解していて、顔をはっきり出さない約束でいやらしい写真をいっぱい撮って、変態プレイの真似事もしてきたパートナーである。

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