君の泣き顔が見たい 1 美冬、先生のこと好きみたいなんだけど
「先生、美冬のこと、気になる?」
窪田麻紀が、ぼくに話かけてきたのは、予備校の最後の講義が終わったあとのことだった。ちょっと息の抜けたような、ふわっとした空間が漂う。時間に追われている子たちばかりの予備校。最初から最後までムダな時間というものはない。それがほんのちょっとだけ、ふわりと丸くなる。その瞬間が好きだった。
しかし、ぼくの講師としてのアルバイトは今日終わったのだ。
ひたすら日本史を教えるだけの機械になりつつあった。徹した。が、先輩講師からは「機械ではダメだ」と言われ続けてもいた。
「立花先生は、もう少し情熱的にやったほうがウケますよ」
そんなことも言われた。予備校ではウケのよくない講師は人気がなくなり、淘汰されてしまう。
プロフェッショナルな講師の多いこの予備校で生き残ることは難しい。ぼくはとりあえず最小限の期間だけでも、乗り切ってみようと必死で食らいついていった。その意味で、これほど勉強したことはなかった。
生徒たちは、部分的には専門家並みに詳しい。その多くがアニメかマンガかゲームの影響だった。それに負けるわけにはいかない。
「美冬、なんだか、先生のこと好きみたいなんだけど」
化粧の濃い窪田麻紀については、最初から「要注意」と聞かされていた。親は金持ちなのだろうが、麻紀はいわゆる不良である。「あんな子と付き合ってはいけない」という「あんな子」だ。
学校なら、そんな偏見にとらわれず、熱血教師として立ち向かうこともあるかもしれない。だが、ここは予備校だ。麻紀の気が変われば、駅の反対側の塾に変更することもできるし、さらに数駅先の名門へ移ることだってあるだろう。
予備校としては「危険な学生ではあるが、つなぎ止めたい」という意味で、要注意人物なわけだ。彼女が他校を選べば、彼女の取り巻き的な数人も一緒にそっちへ行くだろう。
「別に、気にならないよ」と答えた。
「ふーん。紹介してあげてもいいかなって思ったんだけどな」
「紹介?」
女子校生と交際すればこの町の条例に引っかかる。「予備校講師、淫行条例違反で逮捕」となるだけではなく、大学名も出てしまう。
この世にいずらくなるのは間違いなかった。
「やだー、マジメな話よ。恋ぐらいするじゃん、あたしらでも」
まるでそうは見えなかった。恋愛よりもセックスだろう。ぼくには麻紀のよく笑う大きな口さえも、性器にしか見えない。それで、何本の男子を咥えたんだ、と思ってしまう。
一方、深沢美冬は暗く、おとなしく、いるのかいないのかわからないほどだ。だから、毎回、彼女が来ているのかどうかをしっかり確認しないわけにはいかない。
いまどき、清楚な美少女など、存在するわけがないことはぼくにだってわかる。美しい女は誘惑が多く、それに応える悦びも知っている。実際に肉体的な関係を持つかどうかは別として、ベタベタする相手の1人や2人は、物心ついた頃からいただろう。
吸引力がまるで違うのだから、しょうがない。「美」とか「魅力」とはそういうものである。そして「聖少女」的な清楚さを勝手に妄想して決めつけるのは男の欲のせいだ。誰とでも仲良くする子よりは、ぼくのためだけに微笑んでくれる子であって欲しいのである。
矛盾しているようだが、処女性を不可欠だと言っているのではない。男性経験はあってもいい。いいけれども、自分だけの存在であってほしい。
「そういうの、怖いよ」と本気で返事をしていた。
すると麻紀は「へへへ」と笑った。普通なら照れ笑いのような笑い。だが、彼女の目はまったく笑っていない。「先生でも、怖いこと、あるんだ」
「あるに決まってるだろ。おまえに借りをつくったら、大変なことになりそうだよ」
「へへへ。正直だね、立花先生は」
「もう、先生じゃない」
その場はそれで終わった。彼女はいなくなり、ぼくの心に美冬に対するいままで以上に強い意識だけが残った。
もしかすると、麻紀はそのためだけに声をかけてきたのかもしれない。美冬の残像を定着させるためだけに。
いつからか、毎週月曜日と木曜日のぼくの時間に、美冬が来ているかどうかは、とても重要な確認事項となっていた。
暗くておとなしい。まじめ。成績は中の下。頭がよくても意欲がなければ成績は伸びない。美冬には意欲が欠けていた。
その理由が知りたかった。
麻紀と特に仲がいいようにも見えない。そもそも誰とも会話をしない。スッと教室にいて、スッと消えている。
どんな風に育ったのだろう。
深いところまで個人情報にアクセスする権利はぼくにはないのだが、間接的に先生たちからの情報をかき集めると、まずまずの家庭で育った平凡な女子校生のようだった。
挨拶もろくにせず、私物をデイパックに押し込んで背負った。長いようだが短い講師人生だった。ぼくには人に教える才能はない。
じゃあ、なんの才能があるというのか。
バイトをしなければ、来年の前期の授業料が足りない。せめて夏の間だけでもやらせてもらえればと思ったが、この予備校は「講師をやりたい大学生はいっぱいいるからね」と冷淡だった。温情でやれる仕事ではない、と誰かに言われたような気もした。「おまえは悪魔でもいいんだ。悪いやつでもいい。だが、生徒をしっかり志望の学校に入れることができれば、ここでは必要な人材となる」と。
その逆で、いい人でいたいからと、温い考えでやっていたら、こうして簡単に弾き飛ばされる。
夜道に出ても、熱波は相変わらずで、冷房が効きすぎている予備校のせいか、いっきに汗が噴き出した。
「あ、いたいた」
またも麻紀だった。取り巻きの女子たちもいる。
「ねえ、本当は、気になってるんでしょ」
麻紀はこちらのスキを突くのが上手だった。紙1枚ほどのスキマに強引に押し入ってくる。

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