隣の肉便器さん 1 こんな子がこのマンションに?
「こんにちは」
僕は彼女と出会ったとき。いきなりときめきを感じた。それは後ろめたいものだったが、土曜日の夕日を浴びた玄関で、なんだか非日常的な光景に思えた。
小柄な人だった。子供かと思うほど。それが少し大きめの大人物のシャツを着て、おそらくホットパンツを履いているのだろうが、サンダルでナマ足なものだから、まるで下半身は裸のように見えた。
そしてニコッと笑っている。
「あ、はい」
ドキマギするしかなかった。
「隣に引っ越してきた館川です。ご挨拶にうかがいました」
マンガ的に「ぺこん」と表現されるような愛らしい頭の下げ方。
タオルに「館川」と記された紙が巻いてあった。
「み、三橋です。よろしくお願いします」
心臓がバクバクだ。逆光で、髪はキラキラと輝いていて、顔は少し陰っているものの、驚くほどかわいらしい印象しかない。天使。アイドル。こんな子がこのマンションに?
「三橋さんはご夫婦ですか?」
「えっ?」
一瞬、独身と主張しようかと思ったが、玄関に女物の靴を並べておいて、いまさらそんなとぼけたことも言えない。
「は、はい。館川さんは?」
「うちもそうなんですぅ」
うれしそうに笑う。
笑顔、笑顔、笑顔。人生はバラ色。世の中にいいことだらけ……。
もし彼女になにか高額な商品を売りつけるといったミッションがあったら、僕は即買いしていたことだろう。
「あの、ひとつ、うかがってもいいですか?」
声。アニメのキャラほど甘すぎるわけではなく、ちょっとハスキーなところがまたいい。ゾクッとする。
「えーと」
くうううう、なんだ、その小動物的しぐさ。ちょっと小首を傾げる。
サンダルも男物だな。大きすぎる。ペディキュアは紫色だろうか。よく見えない。くるぶしの上あたりの肌に、なにか模様のようなものが見えたりする。なんだろう。痣だろうか。タトゥーってことはないよね。ふと気づくと、彼女の手首のあたりにも、模様のように皮膚が少し凹凸している。
「ええ、なんでしょう」
僕は身長百七十二。体重は少し太ってしまって七十八。茅ヶ崎生まれで、サザンが有名ですよね、茅ヶ崎。だけど僕はサーフィンはあまり得意じゃなくて、泳ぎはできますが、もっぱらプールで……。
「このマンション、築15年ぐらいと聞いているんですが、防音はどうですか? 隣の音とか響いちゃったりします?」
「ああ」
ぜんぜん違う話だった。自己紹介もしなくていいようだ。
「静かですよ。館川さんの前は、お子さんが三人いるシングルマザーの方だったんですよ。ベランダで大騒ぎとかすれば別ですけど、サッシを締め切っていれば、なーんにも聞こえません。もちろん、壁を叩いたり蹴ったらわかりますよ。さすがに」
「そうですか。上の階とかは?」
「ここは六階ですからね。七階か八階かわかりませんけど、工事とかなら響いてきます。事前に工事があるときは、下の掲示板に張り紙が出ます。夜は静かです。たまにイスとかでゴンと床をやれば、それはまあ響くといえば響きますけど」
「そうなんですね。よかった」
どうしてですか、と思わず聞きたくなるが、その言葉が出ない。
「ふふふ。うち、主人がちょっと大きいんで、いびきともかもするし、声も大きいんで」
ああ、なんてカワイイんだ。こんな子の主人になってみたい……。主人と呼ばれたい。ずっと側にいてほしい。
なんてことが昼間にあった。
そのことを夕食時、妻の美希にどう切りだそうかなと思っていた。
夕食は外で食べてもいいのに、美希が珍しく鍋にしたいと言うので任せた。ちゃんこ鍋のスープを買って来て、彼女が好きそうな野菜中心の鍋だった。僕は数少ない肉系のつみれを漁る。
「お隣に引っ越し、あったでしょ?」
「うっ、うん」
つみれが熱くて死にそうになる。
「ねえ、それ4つ目じゃない? ひとり3つ計算なんだけど……」
「あ、そう、ごめん」
知っていた。
「なんだか、すごくかわいらしい奥さんみたいなのよね」
「あ、挨拶に来たよ」
「え? ホント? 嫌だわ。言ってくれればいいのに。下でお会いして……」
「だって、買い物に行ってたじゃないか」
「旦那さんって人も見たんだけど……」
美希は、少し顔をしかめた。
「僕は見ていないんだ。一緒には来なかったな。だけど、体が大きい人らしいね。声が大きいからって、防音を心配していた」
「ふーん」
美希は少し虚ろな表情になった。
「どんな人だった?」
「怪物」
さらっと美希は言う。
「怪物?」
「あ、人だから、怪人ね」
「おい」
いきなり悪口はよくないぞ、美希。もうひとつ、つみれを寄こせ。
「だって、体が大きいっていうか、太っているっていうか、それ以上に顔が……」
そしていきなりゲラゲラと笑い出す。
「なにがおかしいの?」
「カバみたいな……」
そして美希は笑いが止まらなくなり、しゃっくりが出て、キッチンに行って水を飲み始める。カバと小動物。動物園かよ。
「ごめん、だけど、ほんと、スゴイから今度見たときびっくりしちゃダメよ」
散々悪口を言っておきながら……。
「それにしても、マジ、美女と野獣よ。あれじゃ、毎晩、激しいんじゃない? だから防音」
なんだか、それはとっても刺激的な話だった。
だから、僕たちは鍋の火を止めて、ちょっとセックスをした。
「つみれ2個分!」
新婚なんだから、いいじゃないか。

小説(官能小説) ブログランキングへ
★お嬢様はドM 第一部★

DMM.R18版はこちらへ
DLSite版はこちらへ
アマゾンkindle版はこちらへ
少しドジなお嬢様・丸木戸恵梨香(20歳)がマゾの衝動にかられてじわじわと屈辱的な「ドMのゴキ」となっていきます。ブログ公開版に未発表の2エピソード追加。
★お嬢様はドM 第二部★

DMM.R18版はこちらへ
DLSite版はこちらへ
アマゾンkindle版はこちらへ
お嬢様として育てられた恵梨香は、M性に目覚め執事の息子の遠隔調教を受けることに。執事夫妻、代理として屋敷に入り込んだ男、巨根の運転手、そして調教のプロたちから日夜、心身の限界まで責められていく。さらに大学の友人たち、婿候補の子息たちにも……。 未公表部分追加。

今日のSMシーン

680円