女囚スパイラル 1 古いレインコート
古いレインコートは不気味な黒さで、ツンと鼻の奥を突くような酸性の臭いがしていました。ゴム引きというタイプらしく、新聞配達など本格的に仕事で使う人たちぐらいしかいまは利用していないでしょう。なにしろ重いのです。
でもその臭いを嗅いでいると、私の心はチクチクしてきて、女の芯がうずいてきます。これは私と母の思い出のニオイであり、同時に幼い私が性的な興奮をはじめて知ったときのニオイでもあるからです。
それにくるまって押し入れで自慰をするのが、最近の日課になっていました。
そう、日課です。毎日です。
日によって感じ方は違います。あらぬことを考えて、夢のような世界に浸っていることもあれば、冷たい現実に怯えて震えるように絶頂を迎えることもあります。
自分がどう感じるのかは、やってみなければわからないので、飽きないのかもしれません。
私はなにもかもわからないのでした。
自分が何者なのか、そしてどこから来てどこへ行くのか。解消されることのない不安を、花びらで待ち人が来るか来ないか占うように、自分の芯を慰めるのです。
母は私が学校に行く頃には家を出て、どこかに行ってしまい、それきりなんの連絡も取れなくなりました。
学校へ行けば、みんなが当然のように「これが母です」と言えるのに、私にはなんにもないのです。母はどんな容姿で、どんな声で、どんな風に言葉を発し、私に向ってなにを言ってくれるのか。さっぱりわかりません。父は再婚したので、他人に「母です」と言える人はいましたが、彼女は私に母と呼ばれるのは嫌いなのです。学校には滅多に顔を出すこともありませんでした。
不可解なのは、実母がどうして家を出たのか、いまどこでどうしているのか、誰も知らないみたいなのです。疑問に抱いてもいけないようなのです。
その謎には、父も後妻も答えてはくれません。
その苦しみは、誰も理解してくれないようです。
父に聞いても「知らない。もう忘れろ」としか言いません。一度も「これからは私があなたのおかあさんよ」などと言ったことさえない後妻の前では、もちろんこんな話はできないのです。
オナニーをはじめて1週間ほどした頃でしょう。私は学校帰りにふと「なにか隠されたものがあるんじゃないか」と考えました。母の手掛かりです。夏休みが来たら、いまの自分なら一人で探しに行けます。卒業すれば、私は都会の大学へ行く予定です。勉強には興味は大してありませんが、父と後妻からは「うちの子にふさわしい女性になれ」とプレッシャーを受け続け、それに応える義務も感じていました。第1志望の大学に入れたので、その義務感からやっと解放されたこともあって、はしたなくもオナニーにのめり込んでいったのです。
「真菜ちゃんは、都会に行ったらモテモテね」と後妻によく言われます。都会といっても東京ではなく地方都市なので、それほどいい男はいないんじゃないかと期待もしていません。私はオナニーで満足ですし。
町の役所に勤める父は本気で心配しているようです。もしもこんなはしたない娘の姿を見たら、気が狂ってしまうかもしれません。継母は2人の弟を産んでくれて、私とは仲よしですが、父母ともにいまは幼い彼らへの関心ばかりで、私はそうでもないのです。
早めに帰宅してまっすぐ古い土蔵に入りました。宗田家は代々この地域では大きな農家で、明治になってからは地域の政治にも関わり、いくつかの商売をやってそれなりの財産を築いていたのです。
蔵の重い扉は開けたままにしておくのが鉄則です。もし閉じてしまったら、内側からは開けられないからです。
春なお寒い午後。雪がちらつき、冷たい風が蔵に吹き込んできます。
中は物でいっぱいでした。年に何度か虫干しをしたり掃除をするので、私もだいたいのことはわかっています。その中に、私に触れさせない古い木の箱がありました。上には重い臼とか巨大な鍋などがのっています。
前からそこは怪しいと思っていました。
臼を落とさないように下におき、その上に炊き出しに使える鍋を3つ重ねると、ようやく蓋が開けられるようになりました。
それをずらしていくのがまた大変でした。がっちりとした箱で、江戸時代からあるようです。それなのに、蓋と本体はピッタリ隙間がなく合わさっています。
「えいっ」
思いきり引き上げると、中から蓋を引っ張るような力を感じて、四隅を徐々に上げていくしかありませんでした。
寒かったのに、いまは汗をかいています。息が白く、土蔵の闇に吸い込まれていきます。
ようやく蓋が上まで持ち上がり、横へずらすことができました。
中を見て、がっかりでした。茶封筒ばかりです。
「仕事関係のものなんだ」
代々、書類が行き交う仕事をしてきたので、それが溜まっているのかもしれません。政治といい商売といい、さまざまな書面が取り交わされたに違いありません。
すごくがっかりしたのですが、ふと古めかしい封筒が気になって、それを取ると、中にぎっしり封書が入っていました。
見たこともない10円切手。観音様の図柄や、桜の図柄、おしどりらしい水鳥の五円切手を2枚貼っている封筒もありました。
宛名は、舘沖富士子様。祖母です。
祖母がどんな人だったのか、私は知りません。誰も祖母について話をしません。生きていれば80歳とか90歳のはずです。
中を見ると、手書きでびっしりと文字が綴られています。読みにくい。ですが、一瞬でカッと熱くなってしまいました。
「富士子は本当にどうしようもないスケベな女ですね。ぼくのところにいた一週間は、存分に楽しめましたか? もし相手がいないようなら、いつでも来てください。約束通り、こちらから押しかけることはしません」
そんな内容でした。
不思議なのは、祖母の名が宛名としてあるのに、住所はここではなく、見知らぬ会社名でした。差出人は名も住所もありません。
どういうことでしょう。
ほかの封筒も祖母と過ごした数日に感謝するものばかりです。ただ、内容がとんでもないのです。
「富士子を庭の松の木に逆さに吊してあげたとき、あなたも私も大満足でしたね。鞭の味はどうでしたか? あの感触は忘れられません」
「富士子が犬のように私を舐め回し、あげくに私のものをおいしそうに飲んでくれたとき、本当は帰したくないと思ったのです。でも、それでは約束違反で私が処罰されてしまうでしょうから、がまんしたのです」
「いまも、あのとき、もっと大量の浣腸をして差し上げればよかったと思っております。私の特製の浣腸液にあれほど乱れてくれたあなたは、とても美しい」
頭の中に赤い炎のようなものが駆け巡りました。
すごい。祖母はこれほどたくさんの他人と、淫らな交際をしていたのです。スケベ、逆さに吊す、鞭、犬のように、飲んで、浣腸……。
祖母は変態だった……。
汚い記録です。汚い手紙なのです。
だけど、読まずにはいられません。
10通ほどをつぎつぎと開いて、ザッと目を通しました。読みにくい手書きの文字なので、半分も理解できていないとは思います。ただ、母は男たちと淫らな行為を延々と続けていたのです。
手紙のうちのいくつかに「あなたの手記を拝見し」といった文字があるのに気づきました。
祖母は手記を書いていたのです。
古ぼけたほかの封筒にも興味がわいてきて、私はそこにあった3つの封筒を全部抱えました。すると、その下に、ボロボロになったレインコートがあったのです。
「うそっ」
それはとんでもなく臭いのです。カビはないのですが、いつも私の嗅いでいる母のものの数百倍もいやらしい酸性のニオイが染みついているのです。
「ああっ」
全身をその刺激に貫かれたのです。
一瞬で発情してしまったのですが、震えながら急いで木箱を元に戻し、鍋や臼を戻しました。
「真菜さん」
後妻の篤江に見つかってしまいました。
「なにをしているんですか?」
「ちょっと古いものを見ていただけですわ」
「その封筒、勝手に出していいのかしら?」
黙るしかありません。
彼女が土蔵に入ってきました。
「読んだの?」
キツネのようにニヤリと笑いました。
「ほっといて」
私はそのまま自分の部屋に逃げようとしたのですが、篤江は思いがけず強い力で私を押し、土蔵の中に突き倒したのです。
「あっ」
贅肉のついた中年の篤江でしたが、あっという間に外に出ると土蔵の扉を閉じてしまったのです。

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