いいなりドール 20 でも家族してたんだから
「これ、見て」
彼は兄のスマホを見せました。
「なに、これ」
「かそうつうかのとりひきじょ」
かそう……。火葬を連想しました。火葬っつうか取引き女。なんだそりゃって、一瞬思ったものの、ああ、仮想通貨。例のやつ。
「あんたの兄貴、破産してる」
「え? うそ」
小さな文字の羅列。残高ゼロ。
「15億だって言ってたんだよ」
「一瞬の夢だったな」
「ウソ……」
うそとウソ。仮のものなら仮のまま。
わたしには、なにも見えません。
「やばかったな。ぼくは先に支払いしてもらっているから」
「このまま行けないよ。やっぱり、戻る」
兄をあのままにしておくことはできないのです。母もあのままにしておくことはできないし、父もあのままにしておくことはできません。
なにもかも、あのままってわけにはいかないんだけど。
とりあえずは一番、近くで、間違いないなくそこにいる兄です。
死んでいないかもしれないし。
戻ったらいつもの調子かもしれないし。
「帰る」
「えっ?」
「あのままにできないから。救急車呼ぶ」
「面倒なことになるよ」
「だからって、放っておけないじゃん!」
「やめておけよ」
「うるさい! あんたにうちの家族のなにがわかるって言うんだよ!」
急激にこみあげてきた怒りみたいなものでしょうか。ヒステリーでしょうか。
走って家に戻りました。ドットコムのことなんてもう、どうでもいい。あいつは悪いやつだし。拳銃を密造して売りさばくなんてフツーの考えじゃないです。いくらいい声でも、悪者なんだ、あいつは。デンゼル・ワシントンだって悪役をやったし。
なにがいけないのか。どこで間違えたのか。
わたしがいい加減な人間だからダメなのか。
これまで、父や母や兄のせいだと思って来たど、わたしだって、自分のことしか考えていなかったし。あんな父、あんな母だと思わなかったけど、あれでも、あいつらでも、私の生まれる前から人間やっていたわけだし。そのときのあいつらを私は知らないし。
そもそも、父も母もわたしと関係のない人かもしれないけど、でも家族してたんだから。
家族だったんだから。
家に戻ると、思い切ってブレーカーをオンにしました。ドットコムが洗面所の横の壁にそれがあるのを示してくれたのでわかったのです。白いプラスチックのカバーから突き出た大きなスイッチを上に。
パッと電気がつきました。
二階に駆け上がります。
「お兄ちゃん!」
兄の部屋は明るくなりました。
見たくないものが見えました。
兄のケツです。ぶわっと大きな尻。ブツブツがあって、だらしなくて。
ピクリともしません。
兄はズボンを膝までおろして、人形に多いかぶさっていました。
ダメだった。やっぱり、兄は死んでいる。
スマホではじめて緊急通報を使いました。
「どうしました?」
「○○県○○市……」
住所を言っているうちに涙があふれて、声が震えてきました。
「あ、郵便番号……」
「落ち着いてください。なにがありましたか?」
「あ、兄が、死んでいるみたいなんです」
「ご自宅ですか?」
「はい」
「あなたに危険はありませんか?」
「はい」
と言った直後に、「ミユキ」と声をかけられて「ギャー!」と叫んでしまいました。
「大丈夫ですか? どうしました?」
「あああ、すみません、ちょっと知り合いが……。びっくりしちゃって」
「知り合いの方がいるんですね? あなたはその家の?」
「はい」
通話を引き伸ばされているんだとは思いませんでしたが、とにかく耳に押し当てたスマホが痛いぐらいで、でも、その姿勢を変えることができなくて。
まさか、ドットコムが戻ってくるとは思わなかったんです。
彼は白い墓石みたいな歯を剥き出しにしてニヤッと笑って、凶悪犯がこれから女子を犯して殺すみたいな雰囲気なんですが、その手には兄のスマホがありました。
「これ。いるだろ?」
わたしはただうなずいてそれを受け取りました。
「じゃ」と拝むような仕草をして彼は出ていきます。
「あっ、待ってよ」
彼は唇に指をあてて、黙れという仕草をしました。
そりゃそうだ。彼は犯罪者なんですから。これから起きることには関わりたくないのです。
そして宴会を途中で抜け出すオヤジのように、すごすごと消えていったのでした。
もうドットコムには会えないかもしれない。
それはなんだか悲しいことだけど、いまはしょうがないのです。わたしは家族を優先させたのです。
産まれてはじめて、わたしは家族ってものを意識して、家族のためって思ってここにいます。
いつ、警察かどこかとの通話が切れたかわかりませんでしたが、わたしはしばらく同じ姿勢で固まっていました。

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