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バイオレンスツアー 38 おまえたちも、新たな家畜なんだよ

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 2つの檻は数本のベルトで荷台に固定され、上から黒い布をかけられた。
 それからどれぐらいの時間が経ったのか、ミシェルにも礼子にもわからなかった。水も食料も与えられず、ときどき、誰かがやってきて腕に注射をするだけで、姿勢を変えることも許されず、おそらく2日。
 トラックは走り続けた。
 後部が開き、黒い布が取り去られても、2人は到着したことさえ気づかずにいた。半ば失神していたからだ。
「ようこそ、砂漠の中のオアシスへ」
 まぶしい白い光がトラックの荷台に差し込んできた。
 背の高い黒人男が2人に告げている。
「今日から、おまえは2085だ。こっちのアジアの女は5427だ。おまえたちは番号で呼ばれることになる」
 その男は黄色い蛍光マーカーで、礼子の尻に#5427と書いた。ミシェルの尻にも番号を書いた。
 2人は口をディルドで塞がれて言葉も出ない。
「すてきな砂漠だろう! ここは地獄。だが、屋敷はまさに天国。屋敷を出たら即、死が待っている。サソリ、毒蛇、毒蜘蛛、それに見ろ、あの太陽。あんな強烈な太陽、見たこともないだろうな、お前達は。この過酷な自然に裸で放り出されたら3日と生きていられないだろう。運良く生きたとしても辿り着けるのは、高さ5メートルのフェンスだ。高圧電流が流れている。触れば焼け死ぬ。よかったな。黒焦げになって死ねるんだ。フェンスの近くにはセンサーと監視システムがあるので、居場所がわかったら私たちはドローンを飛ばす。フェンスに触らなくても、どっちにせよ、お前達は苦しみながら死ぬんだ」
 なにを言っているのか、2人には頭に入るはずもない。
「おっと、申し遅れた。私はこの屋敷の執事、ボルトンだ。ここはソランド家の所有する砦。城。ソランド家は代々家畜で財をなしてきた。おまえたちも、新たな家畜なんだよ」
 しだいにミシェルも礼子も状況を把握しはじめた。
「エド君だっけか。彼はジェイソンと呼ばれる家畜の捕獲を仕事としている男に助けを求めた。2人で組んで27番を取り戻したのだ。85番は命が助かっただけでもありがたいと思うんだな。すでに礼金は支払われ、エド君はどこかへ旅立ったよ。新たな家畜を探しにね。ジェイソンはこれまでも家畜を送り込んでくれているんだ。いまも、5169がいる。番号の意味? そんなもの知る必要はない。前の2ケタと後ろの2ケタは意味が違うのだが……。いつもは下2ケタだけで呼んでいる。85、27。わかったか」
 返事など期待されていないのだろう。
「家畜たちは短命なので、常に補充が必要だ。これまでもひどい目に遭ってきたかもしれんが、ここではとてもハードにお前達を扱うことになる。つまり、ここで死ぬのだ。ハハハハ」
 27と呼ばれても礼子にはピンと来るはずもなかった。
 早くこの状態から解放してほしかった。2本のディルドを押し込まれ、2頭とも汚物を足元に垂れ流したままになっていた。喉はカラカラで、ときどき意識が遠くなっていく。
 ふと気づいたときは、泣き叫びたい衝動しかない。トラックの中で2頭はうめき、泣いた。
 大型のフォークリフトが、2人の檻が固定されているパレットごとトラックから引き出していく。そのエンジン音を上回る、壮絶な咆哮が砦とも呼ばれる屋敷から聞こえてくる。
 灼熱の日差しの中に引き出された2頭は、異臭を発しながらどっと汗を吹き出していく。
 フォークリフトが向きを変えると、礼子たちにも砦が目に入った。あたりは平坦な砂漠で、枯れたような草が転がっている。そして正面の砦は、灰色に光る石の壁だった。窓はない。
 フォークリフトがゆっくりと壁に向っていく。5階建てほどもある壁が迫ってくる。
 その壁の左端に鉄製の扉があった。あまりにも小さく見える扉だったが、左右に開くと大型フォークリフトが入るぐらいには大きかった。
 壁を抜けるといっそう、咆哮は大きくなり、異臭も強くなった。
 世界は一変した。
 緑の芝生が張られ、上には柔らかな曲線を描く半透明の巨大な屋根があった。太い鉄骨に支えられた屋根は、強い風にも耐えられる丈夫な素材で作られた、巨大な帆船の帆のようだった。いまにも飛び出すのではないかと思える巨大な三角で、それを斜めに外に張り出す三本の白く塗られた鉄柱で三方向に引っ張っていた。
 草原は、ゆったりとした窪みを経て、その向こうの屋敷に続いていた。それも異様な建物だった。真四角な箱のようで、窓がよく見えない。
 フォークリフトがゆっくりと大屋根の下を下っていく。近づくと徐々に、建物には窓があることがわかる。むしろ全面ガラス張りといってもいい。それが真っ黒で光を反射しないフィルムのようなもので覆われているのだ。
 窪みに降りたフォークリフトは遠回りをするように蛇行するコンクリートの道を辿って建物へ向っていく。
 すると、窪みにおりたときに、外と隔てる巨大な壁や、草原の緩やかな下り傾斜のそこかしこに、穴が見える。
 獣の咆哮は、その穴から響いてくるのだ。
 もし礼子にまだ多少でも意識があって、そこを凝視する余力があれば、穴から微かに覗く光る目と牙が見えただろう。
 フォークリフトはゆっくりと上昇し、砦に近づく。建物にぶつかる寸前に停止した。リフトが高く上昇する。2階ぐらいの高さまで上がると、建物に小さな隙間が開いて、強い風が吹き出す。2匹は思わず目をつぶる。エアカーテンだ。
 檻ののったパレットがその隙間に入り込んでいく。
 礼子は目を開けたが真っ暗だった。背後でフォークリフトが去って扉が閉じた。
 エアカーテンも止まる。ヒンヤリした空間には、外の異臭も熱風もない。ロボットアームが檻をパレットに固定しているベルトを外し、檻を押し出す。ベルトコンベアにのった檻は、ミシェル、そして礼子の順で急な斜面を下っていく。
「ぐあああああ」
 ミシェルが先に悲鳴をあげた。
 そして礼子も。
「ひいいい」
 すぐにその声は消える。檻ごと、真っ暗な中、液体の中に沈み込んでいったのだ。
 グワーンと工場のような音がすると、液体は激しく動きはじめた。
 ザーッと水がこぼれていく音とともに、ライトがついた。
 殺風景なコンクリート造りの部屋だった。
 びしょ濡れになったミシェルと礼子。汚物の洗い流された檻の中で、必死に息を吸っていた。
 強烈な熱風が2人に襲う。
 再び息ができなくなった2人だが、たちまち乾いていく。
「あああああっ」
 今度は皮膚が赤くなるほど、焼けていく。
 突然、熱風が止まり、冷風を浴びせられる。
「ひいいいい」
 これが家畜の扱いなのだろう。
 乾燥した体。冷風は彼女たちのためではなく、熱した檻を冷ますためなのだった。
 2つの檻は、ベルトコンベアから腰ほどの高さの台に乗り上げていた。
 ボルトンが2人の黒人を連れてきた。屈強なボディーガードのようだ。Tシャツもズボンもパツパツだ。
「やってくれ」
 男たちは慣れた手つきで、檻の金具を外して行く。前面のパネルが外れ、口に咥えさせられていたディルドともども、床に置かれる。
「はあはあ」
 ミシェルも礼子もようやくまともに呼吸ができる。外れそうな顎。簡単には閉じない。強ばった顔。
 首輪を支えている鎖はそのままなので、自由はまるでない。
 男たちは無表情でワイヤーを彼女たちの口に横に差し込み、そのままぐいっと上に引き上げた。
「あわっ」
 顔が上を向く。檻の天井に目がいく。その苦しい姿勢のままワイヤーが特殊なストッパーで檻に固定された。
 もう1本のワイヤーを口に入れると、それを今度は檻の床の金具に引っ掛けて絞り上げた。
「ああああああ」
 大きく口を開いたままにされる。ワイヤーはとても細いもので、2人の糸切り歯の後ろあたりにめり込んでいる。
 クリップのような装置を上唇に装着してめくりあげる。
 このとき、はじめて礼子たちは、男たちが薄いゴム手袋をしていることに気づいた。手袋は肘までカバーしていた。
 薄暗い部屋だったが、ボルトンが強いスタンドライトを持ってきて、彼女たちの顔に浴びせた。



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