奴隷未満(期間限定Ver) 25 いいニオイがするわ
「あ、こちらは、この研究所の高木さん」と総治が彼女をわたしに紹介してくるではないですか。
「はじめまして。岩見万結です」
思わずフルネームで答えてしまって、負けちゃったような悔しさ。
「高木十和子です。かわいいですね、万結さん」と、ヘッドロックして鉄柱に叩きつけたあと、倒れた十和子の足首を引きずって場外乱闘に持ち込みたくなるぐらい、馴れ馴れしい。
どうなってるのよ総治。彼女なに? わたしという女がいるのに。まさかこいつとこの研究所で、なにかいやらしい研究とかしていたんじゃないわよね。この泥棒猫!
なんて、セリフがまさにネズミを追いかける猫のように、脳内をぐるぐる駆け回っているのです。まあ、わたし自身は一度もネズミを追いかけている猫を実際に見たことはないのですけども。
「十和子さんはね、崇剛柔術の師範なんだよ、こう見えても」
スーツ姿は細身。顔ちっちゃい。体もそれほど大きくはなく、背もわたしと同じぐらいなので百六十ぐらい。高からず低からず。でも圧倒的に顔ちっちゃいので、たぶん写真映りはすごくいい。細いけど脱いだらもっとすごいかもしれない。
「すうごうじゅうじゅつ?」
「そうよ。江戸時代に禿鷹山の崇陰寺ではじまった最強の武術よ」
「はあ」
先ほどの妄想はあながち外れではなかったのです。こいつ、やる気なんだ。わたしをやる気なんだ……。
「万結さんて、お強いってうかがってるわ」
総治はなにをどこで聞いて、それをどう彼女に言いふらしたのか知りませんが、完全な誤解です。わたしは武闘家ではありません。彼女に挑戦したこともありません。
それなのに、十和子は上着を脱いでロボットにひっかけたのです。下は木イチゴのようなピンクのタンクトップ。ヨガの先生みたいな感じ。腕、細っ! 筋肉質ではありません。オッパイは小さめながらかっこいい。
いや、これ、マジ、かわいくてカッコいい。
そしてふらりと自然体に構えるのです。
「ぜひ、崇剛柔術のサークルに入っていただきたい」
「え?」
「いえ、力尽くでも入っていただきます」
そのスピード。一瞬でわたしの横に到達した彼女は、利き腕である右腕を両手で羽交い締めのように抱えると、背中の側へ大きく振ろうとしました。
「あ、なに!」
腕を痛めないためには体もそちらへ動くしかないのですが、そのために右足を軸として左足を彼女の方へ動かすしかないのです。その左足の腿の内側に彼女のパンプスの底が激突してきたのです。
声をあげる間もなく、わたしはバランスを崩して背中から空中に浮いていました。このままではもし彼女に悪意があれば、彼女が体重をかけてきて受け身を取ることもできずに後頭部もろとも床に叩きつけられてしまう……。
「?」
それがフリーズしたのです。
細いのに鋼のように強い腕に支えられ、彼女が折った膝の上に背骨が直撃する寸前に止められたのです。そのままふわっと膝の上にのせられました。
「ふーん」
彼女は笑いながら、顔を近づけてきます。
「あなた、いいニオイがするわ。乳臭いっていうよりも、そうねえ、初潮を迎えた娘って感じね」
だけど、彼女の笑みは、母性ではありません。もっと野蛮でいやらしい笑み。
「サークルに入る?」
一度聞いたぐらいでは覚えられないナントカという武術。
「私、おカネ、ないですから」
お姉さん的な笑みを浮かべるのです。
「万結ちゃんならタダでいいわよ、もちろん。お小遣いをあげてもいい。お姉さんが全部、面倒を見てあげます。全部よ」
私は総治を探します。やつは、やつは、こんなことになっている私たちを見もせずにスマホの入力を続けている!
「総治さん、助けて」と言ってみましたが、ちらっとこちらを見ると、見てはいけないものを見たように慌ててまたスマホへ目を落とし「いま、ちょっと」と呟きます。
いまちょっと? いまちょっと、なに? あなたをお慕いしている娘がいま、怪しい武術のお姉さんに蹂躙されそうになっているのに? これってレiiプですよ、強kanですよ、ほとんど。女同士だからって、やっぱりこれは、これで犯罪すれすれじゃないですか。
ま、犯罪云々は、わたしもあまり大きな声ではいえませんけど。
いつの間にか、彼女はわたしの右腕を掴んでいた手を離していて、それがいま乳房に。
「あら、これ、なに?」
「あっ」
胸に秘めていた奴隷誓約書を、おそらく東京あたりでも滅多にいないぐらいのみごとなスピードで、襟から引き抜いてしまったのです。この女、スリとして一流です。
「総治様」と宛名がちゃんと下手くそですけど、自筆で書いてあります。
「ラブレター!」と目を輝かせているこの女。名前はもう忘れたけど。スゴジュウとかスウゴウジュウとかいう武術の女師範。
「だめ!」
一瞬で、彼女はわたしを床に落ちるがままに任せて、すばやく立ち上がって二メートルぐらい離れた場所で、封筒の中身を取り出しました。
「かわいいわねえ、きれいとは言えない字だけど」
「やめてください!」
「奴隷誓約書。私、岩見万結は、内村総治様の奴隷として生涯お仕えすることをお誓い申し上げます?」
「読むなって、言ってんだろ!」
わたしだって素早く立ち上がって二メートルぐらいなら、一瞬で距離を詰められるのです。
だけど、手を伸ばして誓約書を奪おうとした瞬間に、その手首を掴まれ、次の瞬間またしても体が仰向けに空中にあり、今度は情け容赦なく床に叩きつけられました。
「見損なってはいけないわ。私は師範なのよ」
そして総治に、誓約書を突きつけます。
「ねえ、総治さん。あなた、この子のご主人様になるつもり?」
「え? いえ、そんな……」
照れています。
「大して好きでもないんでしょ。セックスは何回ぐらいしたの?」
「してないですよー」
わたしは床にひっくり返って高い天井を見上げながら、呼吸が戻るのを待つしかありません。
強烈な技でした。合気道にも似た相手を軽くいなす技。それでいて、肺の中の空気が完全に外に出てしまい、自然に吐けば吸えるはずなのに、硬直してしまってうまく息が吸い込めず、総治が平気な顔をしてウソをついてるのになにも言い返せないのです。
おまえ、かけつけ三杯ならぬ成り行き三発やったじゃん。わたし処女を捧げたじゃん(いえ、確かにわたしはそれほど処女に重きを置いていなかったのは事実だけど)。
わたしのあそこは、おまえの大艦巨砲主義を受け入れたんだぞ。
「そうよね。総治さんのタイプとは違うわね。あなたは将来有望な研究者になれる人なんだから、それなりの教養の高い女性とお付き合いするべきだわ」
勝手なこと言うなよー。
「わかりました」と彼女は勝手に飲み込んでしまいます。「これはわたしが預かりましょう」
「えっ」
やっと出た声がそれだ。ほかにいっぱい言いたいことがあるのに。
「万結。わたしの奴隷になりなさい」
あー、それって、なんか聞いたことあるー。倒錯だよ、いや盗作だよー。だけどこれは普通にあり得るセリフなのであって、誰かの専売特許ではないのです。
「総治さんはお忙しい。将来有望。一方、わたしは奴隷でもなんでも欲しい。サークルに、そして崇剛柔術にとって必要ですから」

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