荒縄工房短編集 第四話 死ぬまで内緒 磨く女・妙子編(その2)
大学に行き、自由な時間が増えて、セックスの回数を増やせると感じたのだが、その前に男が求める女になる必要があり、恋愛の面倒なプロセスがあり、いつもあまり楽しめないのだった。
周りの女子たちは男と体を重ねて楽しんでいる。それは彼女たちが無邪気で罰を受ける必要もなく、オッパイに針を突き刺したこともないからではないか。
妙子の受けた最大の罰は、罰を得なければ求めている悦楽に辿り着けないことかもしれない。
それがどれほどの快感なのか、他人からは知るよしもない。彼女にはそれが必要で、セックスを上回っていただけのこと。そもそも、一人でできるため、好きなときに好きなだけやれてしまう。
自分はわがままだから、と、仲良くなった男とも同棲をしようともせず、その彼がいつの間にか遠ざかり、別の女の子と同棲をはじめたと知っても嫉妬というよりは、安堵が先に来る。冷たい女、という烙印が知人の間に広まっていき、声をかけてくる者も減っていく。
ネットや本で、さまざまな性癖を知るようになっても、誰かにやられたいと思ったことはなかった。好きな相手にやってほしいと頼んだこともなかった。
こんなことをしていたら、一生独身で過ごすことになるかもしれない、とわかっていながらも社会人になっても一人でいることに拘ってきた。
「かわいそうだけど、ちょっと痛いわよ」
チクッと陰部に刺さる針。
学生時代にバイトして貯めたお金と社会人になってから得たお金で陰部の脱毛をしている。そのため、これまで自分でやったことの痕跡が醜く愛おしくはっきり見えている。
針にも拘りがあった。それは最初の体験から続いている。いまでは、あの頃の妙子なら信じられないようなプレイになってしまった。
その針は一人暮らしをするようになってから長く愛用してきた。古くなってダメになると同じようなものを買い換えている。レザークラフト用の針で、七センチある。固い革を貫くのだから鋭利で頑丈だ。
指先を守るために革の専用の手袋をつけている。それでぐいっと、針を押し込む。
「ううううう」
ぶつっと皮を破り、大陰唇をタテにえぐっていく。最初の痛みは遠ざかり、肉の中を進む不気味な感触があり、やがて先端が飛び出す。
「はあっ」
すでに汗だくだ。手袋の中の指も濡れている。つるつるとすべってしまい、思うように刺せなくなったことがあった。それからいろいろ工夫して、いまはこの方法に落ち着いている。
すべりやすいときに、針を床の上に立てるように指でささえ、自分で体を沈めてみたことがあった。角度がわずかに違うだけで、針先は表に出ず、むしろ体内に深く入ってしまった。
あのときの恐怖。自分の体の生きて行く上で大切な部分を破壊してしまったのではないか、という恐れ。
それは痛み以上に衝撃的で、ゆっくりと引き抜きながら自然に回復できることを祈り続け、数日は不安の中にいた。
はじめて乳房にマチ針を埋め込んだときを思い出していた。
「変わらないな、私って」
幸い、それほど深くは入っていなかったのだろう。だからといって、無謀なことをするには経験が豊富になりすぎた。同じことは二度としようとは思わない。
矛盾していることはわかっている。安全に肉体をいたぶりたいのだ。
左右の乳房の横が、一人暮らしをはじめてから何度か腫れて酷く熱を持ち、それが引いたあとには皮膚の色が心なしかくすみ、他の部分と違ってきていることに気付いた。
「注射針の痕ってことね」
薬物中毒者にあるという慢性的な注射痕を連想させた。
それから針の先は、新たな肉を求めるようになった。いまは大陰唇だ。
決まった彼氏もいないので、そこを見られることはない。いや、もしそうなったら、見られてもいい。妙子はそれも罰なのだと受け入れた。
柔らかな肉の左右に日本の針が貫いたとき、「ふー」と額の汗を拭い、濡れた腕を舐めた。
「こんなに汗をかいて。だけど、これからだからね」
妙子は、針の先にワインのコルクに粘着テープで強化したものを突き刺して、余計なところに刺さらないようにすると、太ももにゴムバンドをまいて、そこに針を引っ掛けていく。
「あうううう」
陰唇がちぎれそうなほど、左右に引っ張られて陰部の中が剥き出しになる。
ここまでが今日の孤独の時間を過ごす、準備の一つだった。
学生の頃はつまらない授業の間、ノートにどんなことをすればいいか、妄想して記録していた。具体的なことは書かないので、誰かに見られてもなんのことかはわからない。
そんなノートが十冊ぐらいになった頃には、妄想する必要もなくなり、夢の中でいろいろな手順やアイデアが自然に浮かび上がるようになった。
いまは、今夜何を食べようか、と考えるよりも簡単に、肉体への罰が具体的に浮かぶ。
今日のテーマは「磨く」だった。
同僚の女性社員からハワイ土産のティキ人形を貰ったことがきっかけだ。高さ二十センチほどの木彫りの人形は、ほぼ円筒形だが切り立った頭部、ギザギザに描かれる長い髪、横に大きく開いて歯が見えている口。その頭部から同じ太さで肩、中腰のように曲がった膝へと、いかにも木彫りらしくゴツゴツしたフォルムも独特だ。
手で触ると美しく滑らかに仕上げられている。
それを妙子は膣で磨く。
わざわざ玄関まで行き、そこに飾ってある人形を手にする。築四十年の1LDKの賃貸。あえて靴箱の上に人形を飾っている。ドアの向こうは外廊下で、街の音がしている。ドアの隙間から風まで入り込む。
ブルッと身震いしながら、妙子は裸のまま三和土に降りる。
いまドアを開けられたらみっともない姿を見られてしまう。
「お願い、見ないで」
つぶやきながら、大理石風の三和土の上に木彫りの人形を置く。
「ああ、耐えられるかしら。痛いわよね。はじめての時よりも、ずっと痛いわよね」
指を膣の中に入れて擦り、クリトリスをいじってやると、とろとろになっていく。その甘い快感はほんの入り口に過ぎない。
「こんなに早く濡れてしまうなんて」
罰を待ち望む自分を憐れむ。
「だけど、どれだけ濡れても足りないかもしれない」
ぱっくり開いた膣口を人形の頭にあてる。
「うう、大きすぎる。固すぎる。ゴツゴツすぎる……」
つぶやきながら体を沈める。
木像も玄関も冷たく固くゆるぎない。柔らかく浮遊している妙子の肉体が、そこに沈んでいく。
「ぐううううう」
耐えきれないほどの痛み。
自分では手加減してしまうから、誰か厳しく暴力的にやりきってくれる人を求めた方がいいのではないか。そんなことを思った時もあった。
だが、妙子はたいがい、やり切ってきた。革細工用の針を乳房や陰唇に突き通せるようになった。
迷いながら苦悶している序盤から、いっきに破壊的な力を入れる。その瞬間に妙子は真っ白になる。
ティキ人形を貰ったときから、これをいつか罰に使うと決めていた。何度か実際に入れようとしたこともあったが、思いきりやるまでには至らなかった。
これも、過去に何度も経験していることだった。
はじめて針を乳房に突き刺したとき。やると決めてから、実行するまでかなりの時間がかかった。それでもやったのだ。今度も同じ。時間はかかるが、やる。長い長い助走の最後に、いっきに……。
「ぐはっ」
頭部がめり込んだのがわかった。思った以上に大きく、ごつく感じる。
「裂けちゃう……」
つま先で体を支えている。プルプルと足が震える。
「んんっっっ」
体重をゆっくりかけて木像をほぼ飲み込む。
真っ白に溶けていく。かなりの時間、そのままでいた。
突き出た膝の部分から下は入らない。ひっくり返らないようにと、玄関にぺったりお尻をついた。全体重で貫いている。
「はあ、はあ、はあ」

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