荒縄工房短編集 第四話 死ぬまで内緒 磨く女・妙子編(その4)
今回はダメかもしれない。
少しずつ押したり引いたりしているうちに、痛みは麻痺したようになり、シャワーを強くクリトリスに当てると、熱い欲情に包まれていく。このまま死んでもいいとさえ思う。
そのうち、さっき自然に押し出されたように、人形の膝の部分が飛び出した。
「くうぅぅうう」
その痛みに現実に引き戻された。どれぐらいシャワーを浴びていたのだろう。
ぐったりしてきた。体力が落ちている。このまま倒れてしまったら危険すぎるだろうか。妙子は自分でもわけがわからなくなっている。
「ふううううう」
あえて人形を捻るように動かして、粘膜から剥がしていく。裂けていくのかもしれない。だとしても、確実に抜けていく。少しずつだが。
「はあっ」
鏡で確認すると、あとは頭部だけだ。
めくれた陰部は充血して赤く色付いている。肌はむしろ血の気が引いて真っ白だ。
疲れ果て、動けるか試すためにも立ち上がってみる。男根のようにぶらさがるティキ人形。濡れて光って、以前より存在が大きく感じる。
お土産とはいえこれもその地域の神様かなにかなのだろうから、こんなことをすれば恐ろしい呪いがかかっているのだろうか、と妙子は心配になるが、そもそも自分は呪われているのだと思い直す。
簡単に抜けそうなのに、引っ張ると激痛でとても作業を続ける勇気が出ない。とりあえず、針からゴムを外した。
人形がぶらぶらするので、腰を動かすと、「あうっ」と強烈な刺激を受けて、小水を激しく噴きながら達した。
「はあ、はあ、はあ」
しばらく自分の呼吸だけが狭い浴室に響く。手を壁について、立っているのがやっとだ。
こうした危険なプレイをするようになって、さまざまな格好で達してきた。立ったまま、座ったまま、逆さになったまま、服を着たまま、などなど。
その中では浴室で立ったままイクのは、妙子にとってはそれほど珍しいことではなかったが、股間の異物感がものすごく、なにかに陰部を噛み千切られそうになっているとしか思えない。
呼吸を整え、体をシャワーで流し、いったん浴室から出る。
このまま、ズボンを履くことはできない。腰にバスタオル、上には部屋着のトレーナーでいったん落ち着くことにした。
もしこのまま抜けなかったら、明日、どうやって仕事に行けばいいのだろう。
気を失ってしまわないように、経口補水液を飲み、栄養ゼリーを飲み込んだ。失われた体温が戻ってくる。温いシャワーを長時間浴びていて、皮膚の表面はともかく、体の芯はむしろ冷たくなっていた。それが徐々に回復する。栄養ゼリーをさらに摂取すると、ようやく脳もやや落ち着いて考えることができるようになってきた。
まず針を抜くことだ。
革手袋とペンチを用意する。肉から串を引き抜くようにする。細い針なので串とは違い比較的抜けやすいはずながら、自分でやるときは確実にきちんと引き抜きたいので、ペンチを使う。端をペンチではさみ、力を込めて引っ張る。左手は肉を押さえる。すっと抜けてくれればいい。
時間が経つと肉に絡みつくのか抜けにくくなることもある。
「んんっぐぐううう」
妙子は自分でも鬼のような形相なのだろうと想像するのだが、一度、自撮りしたとき、あまりにも平凡な無表情だったのでむしろ怖くなったことがあった。
自分を罰しているときは、自分がどこかに消えているのかもしれない。
妙子を知る者がもしいまそこにいたとしたら、彼女が完全になにかに取り憑かれて自分を失っていると思うことだろう。狂気だと。
だが、たとえば自分の足元に最高のパスがきて、ゴールキーパーと一対一になったときだとか、とても面倒な状況を相手に知らせるために気を配ったメールを書き上げて送信をクリックするときだとか、人は狂気に近い状態になる瞬間があるのではないだろうか。
妙子の狂気は、自分を罰することを楽しんでしまうことだろう。ゴールを決めるときのように。異様な興奮と冷たい判断を同時に味合うような。
右側はすっと針が抜け、先端につけていたコルクを取り去ると、そのまま肉の中を抜けていった。
「はあっ」
ぷっと血が針のつくった穴に、つぼみのように膨らむ。
何度見ても美しいと妙子は思う。痛みよりも、美しさに心が捕らわれる。そのままにして、左側に取りかかる。
こちらもスムーズに針が抜けて、血は針穴を塞ぐように少し漏れただけだ。
黒々と光る人形が妙子の膣壁に囲まれて笑っているような気がした。
「そこが、いいの?」
人形は粘膜に包まれる気持ち良さに酔っている。だから出てこないのか。
それとも噛みついているのだろうか。
中から食い荒そうとしているのだろうか。
少し動かしてみるものの、人形はびくともしない。
いま必要なのは休息だ。陰部に化膿止めを塗布し針のつくった穴に絆創膏を貼った。
ベッドに入る。股間の違和感。寝返りはうてない。とても熟睡はできないのだが、うとうとする。動き出した脳ではさまざまな思いが駆け巡る。
恥ずかしい姿で発見された遺体。産婦人科にこのままの姿で駆け込んだ自分。そこへ行く途中で失神してしまう可能性……。
そもそももし仕事に行けたとして、イスに数時間座り続けることはできない。トイレでおし○こをすることもできそうにない。むしろ浴室でもあったように、ふいに噴き出したり垂れ流してしまいそうで怖い。オムツをあてることはできるだろうか。
どれぐらいそうしていたのだろう。
喉が渇き、空腹だった。
夜に食べようと思っていた焼きそばを調理するのはあまりにも面倒で、とにかくベッドから出ようと、腰掛けた。
「うううう」
人形がベッドにあたると、えぐられる。膀胱を刺激するのか、ちびる。慌ててティッシュで拭う。それを口に入れて、じわっと自分の尿を味わう。
ゆっくりと立ち上がる。まだ漏れてくるので新しいティッシュを当てながら歩く。
歩くことはできる。
そのときに、「病院に行くしかない」と一瞬思ったのに、妙子は「いえ、入ったのなら出るはず」と否定する。
過去に、すぐに取れなくなって大変な思いをしたことは何度もあった。膣の奥に残ってしまったビー玉や小さなペンダント。ムリに引っ張ったら鎖が外れてしまい、本体が残ってしまったのだ。いずれもずっと昔のこと。
クスコ(膣鏡)を手に入れ、外科手術のように膣を広げてピンセットで取ることができるようになってからは、残置することはまずない。そもそも、つまらない事故を起こさないだけの経験を積んでいる。
アヌスではピンポン球やビー玉やなにやかや、便と一緒に排泄するしかない場合は相変わらずあるのだが、最近はわざと便として出すしかないようなことをして、その異物を汚物から取り出す行為も罰となっている。指で、唇で、舌で。そのときどきによって、罰は変わる。
今回のようにかちっとはまってしまって取り出せなかったことは、これまでほとんどなく、一瞬焦っても時間をかけて苦悶の果てに取り出してきた。
その経験から言えることは、焦らないこと。慌てないこと。
「ぜったいに、抜けるはず」
妙子は居間の床にビニールシートを敷き、使えそうな器具を用意する。入りそうもないが、プラスチックのクスコ、マドラーなどヘラ状の金属棒を数種。針のついていない小さなシリンジ。立て掛けられる鏡。そしてローション液。段ボールなどを扱うときに滑らないように加工されている軍手などだ。
もし膣が裂けたら、そのときは病院へ行こう、と決意する。ティキ人形を入れたまま行くことは考えられない。
クスコの嘴をあててみるが、入らない。ゴツゴツとした木像と粘膜がからまっているので簡単に隙間ができない。
ヘラ状の金属棒を入れてみようとするが、わずかに入っても木像のどこかにぶつかってそれ以上は行かない。
シリンジでローションを吸い上げて、わずかな隙間から中へ注ぎ込む。そこにヘラを押し当てて少しでも木像を引き剥がせるようにテコの要領で動かしてみる。
「あっ」
動いた。
妙子は自信を得て、木像を軍手で掴むと、回転させようとした。木像のどこかが自分の体のどこかに引っかかっているのだとすれば、回してずらせば、入れたときのように引き抜けるのではないか。
汗をかき、小水を漏らしながら作業を続けた。
とうとうクスコの嘴がぐいっと入った。同時に人形も押されて奥へ。それでは逆なのだが、クスコを入れることができれば膣壁を押し開けるのではないかと妙子はしばらくその作業に熱中する。

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DLSite版はこちらへ前作「妹は鬼畜系」で、トーメンターのマイア様に心酔したケイ。新しい「おにいちゃん」を手に入れたケイは、少しずつ「ぼく」を引きずり込み、逃げられない状態へ。「トーメンター」を目指す!
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