奈々恵の百日 15 第四話 絶望試験 その3 奈々恵だったもの
それでも、美和さんも、武男と多美も、いままで見せたことのないほどニヤニヤと笑っていました。
楽しんでいるのです。楽しんでいただいているのです。
「ほう」と武男が声を出しました。
「うれしいみたいね」と多美。
「うん、いいわ、その笑顔」
写真を撮る美和さん。
お尻の快楽と苦痛、舌に突き刺さったタバコ。
それでも私は笑顔でいられたのです。みなさんに満足していただける笑顔です。
「ブタ四号。忘れちゃダメよ。いつでも、誰に対しても、その顔をしてね」
「はい」
苦いタバコの灰が口に広がります。
焼けた舌先のことはもう気になりません。
「そっか、こいつ、灰皿になるのか」
男たちがざわざわすると、武男が彼らにタバコを勧めライターを差し出します。次々と火がつくタバコ。男たちはそれをおいしそうに吹かします。潮風が煙りを吹き流していきます。
「おまえ、タバコ、吸えたっけか」
武男がそう言うと、正面を向いている鼻の穴に新しいタバコを差し込んで、火をつけます。
「吸えよ」
口を閉じ、吸います。吸ったことがありませんので、そういえば、結婚時に彼はタバコを止めたことを思い出しました。あの頃、私は彼の子を産む気でしたし、禁煙することは社会的にみても「当たり前」のように思っていました。
「ぐほっ」
煙が気管を刺激して咳込みます。
「見ろ、咳込んで、また噴き出したぞ」
腸内に残っていた海水が噴き出したようです。
「こっちもだ」
両方の鼻にタバコを入れますが、大きくされたからか、1本では埋まらないのです。武男は三本ずつ、両方の鼻に入れて火をつけていきました。
「ぶほっ」
えずき、涙を流していますが、美和さんの怖い目。
笑わなければ。
笑うのです。この苦しみを受け入れて、ブタ四号として生きるために。
「あ、笑ってる」と男の誰かが言いました。
「そうそう、その方がブタらしくていいや」
男たちはタバコを吸いながら私を蔑んで楽しんでいます。
アイドルや女優なら、笑顔で多くの人の心をほっこりさせることでしょう。ブタ四号の笑顔は、みなさんの嗜虐的な気持ちに火をつけるのです。
膝立ちにさせられます。
上を向いて、鼻のタバコを吸いながら、口を大きく開け、舌を出すのです。冷たい鼻環を感じながら。
「こうしてあげるね」と美和さんが乳首のリングに指を引っ掛けて引っ張りました。
「笑顔でいられるかしら?」
乳首が引き伸ばされ、重たい乳房が持ち上がります。
そこに男たちがタバコの先を近づけていきます。
「はへっ、へげっ」
おかしな声を上げますが、笑顔のままでいなければなりません。
強烈な痛みが乳首に。細くて鋭利なものでえぐられていくような痛み。
つぎつぎと男たちは火のついたタバコを乳首とその周辺に押しつけていきます。
そしてまた吸って、先端を真っ赤に燃やし、それを押しつけるのです。
これまでならギャーギャーと泣き叫んだでしょうし、それを遮るために厳重に口を塞がれたはずです。
ですが、いまは自由に泣き叫ぶことができるのに、笑顔のままで、口を開けて鼻タバコを吸い続けるのです。
タバコの作用かわかりませんが、めまいがし、脳がぐるぐると動き出したようでした。
正気に引き戻すかのように、乳房や乳首にタバコが押しつけられます。
「ヤニだらけになっちゃうな」
「あとで歯磨きをさせるか」
「鼻磨きも必要だぜ」
どれぐらいそうされていたのか、私にはわかりませんが、とても長い時間に思えました。
少なくとも、コンクリートの突堤で傷ついた膝は皮膚が破れて血を滲ませていました。
みなさんのタバコが最後には舌で揉み消され、さらに鼻から抜き取られたタバコも舌で消されていき、灰皿修業はようやく終わりました。
「まあまあだったわ。笑顔、忘れたらダメよ」
美和さんが珍しく優しい言葉をかけてくださって、私は本心から笑顔になっていました。
そうなのです。この一瞬。私は悦楽とは違う、とても大きな喜びに包まれていたのです。
ブタの喜びは、もしかすると、これなのかもしれません。
とはいえ、それはとても短く儚いもので、潮風とともにさっとどこかへ消え去ってしまうのです。
ぽっかりと開いたままのアヌスのように、いつも私はなにかが足りないままなのでした。
家に連れ帰られ、みなさんが武男たちが持って来た昼食を食べている間に、私は離れの風呂場で顔を洗い、お尻の穴の洗い、どろどろの陰部を洗い、歯を磨き、鼻うがいをしました。
鼻うがいは、入院中に覚えたことですが、やはり術後、正面を向いた鼻をきれいに保つためにはそれなりに洗う必要があり、最初は苦しかったものの、いまでは洗顔と同じようにできるようになりました。
鏡の中の自分。主に左の乳房に穴があいたように点々と残っている火傷に心が痛みます。舌はそれほど酷くはないもののずっと痺れたような痛みが続いています。
なによりも笑顔。目をつぶって美和に褒められた笑顔を再現し、目を開けると、そこには見たことのない私がいました。
ブタ四号。なにも考えたりせずいつも笑っている。誰も警戒心を持たず、見下していられる存在。そして呆けたような目。なにか確実に奈々恵だった自分から抜け落ちたのです。
それを取り戻せることはもうありません。失っていくことで、私をブタ四号にし、笑顔にし、悦楽に生きる道を与えてくれるのです。
以前の私なら、いま体中に響き渡る痛みの数には耐えられず、こうして落ち着いて鏡の中のブタ四号を眺めていることなどできなかったでしょう。
いまそこにいるのは、『病葉の人妻』のなれの果て。妻でもなくなり、人でもなくなっていった存在です。
たぶん、抜け落ちた私の部分があれば、発狂したかもしれませんし、鏡の中のブタ四号はおぞましく醜く汚らしく、とても受け入れられなかったに違いありません。

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