いいなりドール 2 さあ、次のページをめくって
離れていく兄。
「動かないで」
「うん」
なんでも言うことを聞きます。
なにをするのかな。
涎を腕で拭って、「くせっ」って自分でニオイ嗅いで。
「なんだよ」
「うん」
ただ笑ってしまっただけだから。バカにしたんじゃなくて。そのニオイはいま私が口の中に入れているのと同じもの。同じものを感じて臭いって思っているんだもの。
笑っちゃうよね。
「ちょっと待ってろ。歯、磨いてくる」
「えっ?」
そういえば兄が歯を磨いているところを見たことがない。
たぶん、寝静まった頃に顔を洗ったりしているのかな。風呂場でオナニーとかしながら歯も磨いているのかな。
そう、兄はお風呂場でオナニーしているんだと思う。それを見た気もする。
なにしているのか、ずっと前のことなのでわからなかったけど、ぜんぶ、同人マンガで勉強したから。男子の生理。欲望。願望。肉体。いやらしさ。身勝手さ。妄想……。
歯磨き粉のニオイをさせて兄が戻ってきた。珍しく髪にクシを入れたみたいだけど、そもそも床屋行かずに自分で切っているので、ぐちゃぐちゃの髪なんだけど。横にブワッと広がったマッシュルーム的な。耳は出ている。前髪を揃えたらオカッパ風になるだろうけど、それもしない。
つくづくダメな兄は、最近読んだ本によれば、そういうダメな自分でいることで目的を達成しているのです。
確かに兄はなんでも手に入るし、嫌悪と同情を受けているし、家族の悩みの八割を占めているし、父母はいっきに老けていくし。私は近所の人に奇異な目で見られ、しかも嫌悪され、それでいて時々「大変ねえ」と治療をすれば治る見込みのある病気にかかっている兄を抱えた妹のようなポジションで同情されたりもする。
兄の病気は治らない。なぜなら、兄は病気じゃないから。
こうしていたいから。変わりたくないから。
それに、父母や私も、兄はこのまま死んでくれればいいと思っている。だって、そうすると、世間のこれまでの嫌悪がすべて同情に転じて、いまはこっそり「大変ねえ」と言われているけど、それが正々堂々と「大変だったわね」になるから。
兄は必ず死ぬ。
だけど、それが父母や私が願っているタイミングであるかどうかは、わからない。
でも父母は気づかないかもしれないけど、兄が私より先に死ねば、それは私の中の半分が死ぬことになる気がする。悪性の腫瘍みたいに、間違った細胞分裂を繰り返し、私にとってまったく役に立たないばかりか危険でさえある存在になった体の一部を、完全に殺して切除して灰にして埋めてしまうのです。
金魚のお墓のように、棒でも立てて目印にして小さな塚を隣の家との曖昧な境界線のあたりに作ってあげたい。
毎日は見ない。たまに、見る。テストで失敗してしまった日とか、理不尽な怒りをかってバイト先で恥ずかしくもくだらない気分に陥ったときとか、彼氏だと思っていたヤツに生意気にも「お前の顔なんて二度と見たくない」と言われたりしたら、私はその小さな塚に向かって唾を吐く。
そして言ってあげる。
「あんたみたいなクズじゃなくても、世の中はとんでもなく生きにくいんだよ、バカ」
誰も泣かないだろう。通夜はきっと明るい。お寿司が並んでビールの栓がポンポン抜かれて、私だってこっそり飲むだろう。ビールのマズイ味が兄を思い出させるでしょう。
だから、彼が死ぬ前に、私は自分を捧げておくのです。もう一人の自分。間違って大きくなってしまった半分同じ遺伝子を持つ細胞の塊に。
彼の種を宿してもいい。
近親相姦は魅惑的な四文字言葉だと思う。近くて親しくて相愛で姦淫するの。
たぶん、私は兄を愛している。近くて親しくて、吐き気がするぐらい嫌いで早く死ねばいいんだけど、愛してしまっている。妹として生まれた時から、その愛は私の中に埋め込まれているのだから、しょうがない。
最初に気づいたのは幼稚園ぐらいの頃でしょう。
兄は私を抱き上げて裸にして、いろんなところをくすぐった。
あの快楽。
兄との秘密の時間。
それを誰にも言ってはいけないことぐらい、知っていた。私はいけないことをしている。いけないから楽しい。言えないことだから大事。
あの思い出を忘れるふりをしたことはあるけど、埋め込まれた愛がぜったいにそれを忘れない。
それどころか、いつかまた、ああいうことをしたい。兄に抱かれてくすぐられて……。
だから、兄の部屋で目の大きな女子が汚い男たちに裸にされて、どろどろに溶かされていくマンガを見つけたときに、「これ、やりたい」と思ったのでしょう。
女の子は泣きわめく。オッパイも小さいし、毛も生えていないけど、ズコズコとされてしまっておかしなことを口走り、最後には絶頂を迎える。いや、嫌い、不潔、汚い、ダメ、痛い、ひどい……。そして感じちゃう。
マンガだから本当ではない。実際は、絶頂は迎えないだろう。だって理論的におかしいもの。
いやなこと、汚いこと、痛いことをされたときに、自分の中の愛が広がっていき快感になっていくってことは、考えられないから。
冷たくて濡れた布団に入って気持ちよく眠ることができないように。
乾いていて清潔で良い匂いのする布団に入れば、気持ちよく眠れるに違いない。お日様にあててたっぷり紫外線を浴びた布団なら最高だと思う。
歯磨きのニオイは、残念でした。
さっきのままの方がよかったけど、ここでドールは文句を言ったりはしない。なされるがままでいい。
彼の指先はパソコンのキーボードやゲームのコントローラーやポテトチップスを相手に長年使われてきたからか、思った以上に不器用だから自分からボタンを外すしかなかった。
ちゃんとやってほしいけど、ちゃんとやらないのが兄なのだ。
「はあはあはあ」
激しい息づかい。いま死ぬ? まだ?
湿った畳に仰向けにされた私を、彼はただ見下ろしています。
口の周りだけベチョベチョになったし、この先に高速道路の入り口があるとあんなに大きく看板が出ているのだから見逃すはずはないわけで、ボタンは全部ちゃんと外している。
ブチブチブチと乱暴にボタンを飛ばすってことも考えたけど、いまの兄にはそんなことはできないことも知っている。
さあ、次のページをめくって。
これまではモノクロだったページが、次はカラーの見開きになるのよ。イチゴのパンツはいまの私には少し小さくて、食い込んでいるけど、それがいいわけでしょ。
妹のあられもない姿を見て、兄は獣になっていくの。
私の半分がキモイ生き物になっていくの。
それを、やって。
映画なんかだと、とっても醜い外観の生物は純粋な心を持っているものだけど、ごめんね、兄には心なんてないの。それは全部、残り半分の私が貰ってしまったから。
そうね。たぶん、私には持て余すほどたくさんの心があって、そのおかげで誰からも可愛がられて、学校ではいろんな相談を持ちかけられて、友達もいっぱいいるんだと思うから。
さあ、その心の半分をいま、あなたはむさぼり食いなさい。特大ポテトチップスの袋を乱暴に破って、十本の指をすべて汚しながらむさぼり食いなさい。べとべとになった指をしゃぶりながら、なおも飽きることなく、最後の一片まで食べてほしい。
袋の角に残った滓は舐めとってほしい。
毎日やっていることでしょ。
「なんかなあ」
兄がなにかをぶつぶつ言っている。その日本語は、読解力で百点を取ったことのある私にも理解できません。
一月の晴れた空。薄曇りになっていくときに、残念な気がする。
二月の晴れた空だって同じ。
薄曇りは、日焼けをしたくない母にはうれしいことだろうけど、私には残念。
兄の意識はいま、薄曇りになっています。
心がないのに、あたかも心があるかのように戸惑っています。
クソッ。やらないの? やれないの? どうするの?
「あっ、なに!」
乱暴な兄が戻ってくる。足首をつかまれて、そのままズルズルと畳みの上を引きずられていく。
そうよ。それよ。私はドール。殺されて解体されたばかりの肉みたいに、私のことを扱ってくれればいいの。
「えっ、うそ」
気づくと明るい廊下。
バタンとドアが閉じ、兄はモーターで動く手の出る貯金箱のように、さっと引っ込んでしまった。
「なによ、なによ!」
パンツとシャツ。ボタンをかけるしかない。外すときは興奮していたけど、かけるときは怒りしかありません。
兄はしないのだ。
どうして。なにを間違えた?
キスして損した──。
しばらく怒りは収まりません。

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