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いいなりドール 49 最終回 さようなら、いいなりドール

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「健介、おまえ、連中を敵に回すことになるぞ」
「それがみなさんの望みなんでしょ。ぼくに仮想通貨で稼ぐ方法を教え、中国の会社との連絡方法を教え、会社を作ってどうのこうのって、ぜんぶ、みなさんが考えてやったんでしょ」
 小向たちはニヤニヤしています。
「医者、行きてえ。話はあとにしよう」
「ぼくのクルマ、動きますから」
 わたしたちはトラックの前に止まっている、古ぼけた乗用車に乗り込みました。4人乗りなのでしょうが、ギッチギチです。それに4人乗ると、なんとなくクルマが沈み込んだような気もしました。
「どこで、こんなオンボロ、手に入れた?」
「しょうがないでしょう。中古車屋ですぐ乗れる車で予算内がこれしかなかったんだから」
「レンタカーは断られた?」
「まあ、そうですね。やつらがくれた身分証とクレジットカードがクソだったんですよ」
「信じて貰えなかったんだな」
 バックして、パオとは違う向きにクルマを進めようとしたときでした。
 バキバキと音がして、ガラスが飛び散り、わたしの隣にいた小向悟の顔が吹っ飛びました。
「きゃああああ」
 助手席の小向諭も。
「くそっ、死んでねえのかよ!」
 健介は頭を低くして、アクセルを踏んだのですが、銃弾はさらにクルマに浴びせられて、ガクンとさらに車体が低くなると道路を削る音が響き、そして止まりました。
「あの、くそバカ女!」
 健介は銃を持って飛び出しました。
 わたしはなんだか力が抜けてしまって、もたれかかってくるサトルの体の下にいました。彼からゆっくりと体温がなくなっていくような気がしました。
 外では、トストス、タタタタと相変わらず乾いた銃声が響いています。そして空はお怒りになったのか、ドドーンと雷を近くに落としました。
 ザーッと雨が降ってきて、割れた窓から激しく冷たい水滴が入り込んできました。
「濡れちゃう」
 サトルが、サトシが濡れちゃう。
 わたしはバカみたいに、隣のサトルを引きずって、少しでも濡れないようにしてあげながら、クルマから降りました。そして開いたままの運転席に頭を突っ込んで、サトシも頭をハンドルの下にくるようにしてあげました。
 そんなことをする必要はないのです。彼らの笑顔はもう見ることができません。ほぼ顔はなくて、もじゃもじゃの髪も血で染まっています。
 双子で生まれて、同じときに死ぬなんて。
 なんだか、無性に腹が立ち、わめきちらしたい気がしました。
 銃を手にしました。弾はあるのかないのかわかりません。
 サトルの持っていたロケット砲。わざと炸裂しないようにしていたのでしょうか。たまたまの不発でしょうか。もう1発を彼は身につけているはず。それを探し出して装填しました。これでいいのかわかりませんが、シンプルな構造なので、ほかにやりようがありません。
 雨と風が強く、目を開けられないほどです。
 健介はどうしたのでしょう。そして母は。いえ、雪子は。
 デーモンは守護神。双子たちはわたしの守護神だったのです。
 いまはわたしが自分で自分を守るしかない。
 動かせるクルマはないし、歩いて逃げるのは、とても危険。
 だからといって、いま不死身みたいなユキコと戦うのも危険。
 雨が降っている間に、遠ざかることしか考えませんでした。
 びしょ濡れになりながら、来た道を戻っていくのです。いま頼れるのはあのパオしかないから。
 もし橋妻光陽や能未堂が、健介の言うような存在なら、そこはわたしが頼ってもいい場所のはず。
 遠くでパッと激しい光。
 雷ではありません。照明弾のようなものでしょうか。それはユキコの合図なのでしょうか。
 ユキコは健介を倒したのでしょうか。
「ああっ、もう!」
 わたしは戻るのをやめました。
 ユキコがそこにいるなら、倒す。健介がいるのなら、話を聞く。
 このままパオに戻っても、どうせユキコがまた知らない連中を連れてやってくるに違いないのですから。
 あの照明弾はその合図に違いないのです。
 殺してやる。
「ハハハハ」
 ユキコが笑っています。
「バカ娘。戻って来るのか。いい度胸だね。おまえに味方するやつはもういないんだよ。このあたりには誰も近づかない。わたしとおまえだけだ」
 健介が言っていたことは本当なのでしょうか。ユキコはわたしの母ではない? そんなはずはないのに。
「お母さん!」
 試しに怒鳴ってみました。
「もうちょっと近くに来い!」
 雨の中で、彼女が銃を構えている姿が目に浮かぶようです。声の方向が判然としないので、ロケット砲も使えません。
「お母さん、わたしを産んだんでしょ?」
 すぐに返事はなく、ビュッと耳元をなにかが超音速で飛んでいったような気がしました。あいつは撃ってくる……。
「産んだ覚えはないね!」
「だって……」
「わたしは、いいなりドールだった。自分ってものがない女だった。健介を産んだ。そのあと、おまえを押しつけられた。会が崩壊するとき、おまえを逃がすために」
「そんな!」
「いいなりドールだったから、わたしはあんたを産んだと思い込んでいたんだ」
 ビュッ。
 また近くを弾が飛んでいきました。完全に射程内です。
 見えた。人影。草原なので立っている存在は目立ちます。周囲には誰も立っていません。
 そこまでロケット砲が届くのかどうかわかりませんが、とにかく構えてみました。
 そのとき、雨がほとんど小降りになりました。
 ユキコの姿が見えます。
「当たれ!」
 小向兄弟の気持ちをのせたロケット弾が、わたしの肩をがつんと殴りつけて飛び出していきました。白い煙が渦を巻いていて、どうやら外れてしまいそう。
 それに、さっきも不発だったので、今度も不発かも。
 湿ってるかも。
 いろいろ思っていたら、人影の近くで地面に落ちてドーンと派手に爆発しました。
 やった!
 わたしは走りました。当たっていないにせよ、ユキコは倒れているはず。立ち上がる前に仕留めないと。
 濡れた草原を走っていっても、反撃はありません。
 地面に穴が開き、煙がたちのぼり、火薬の臭いが漂っています。ああ、小向兄弟の臭い……。
 ユキコは銃を持っていません。左腕をやられたらしく、かばうようにしていますが、倒れたままです。
「ずるい」と彼女は言いました。
「うっせえ!」
 わたしは彼女の近くに行き、銃を向けました。
「撃ちなさい。そして、1人で生きなさい」
 母はそう言うと目をつぶりました。優しい顔をしていました。
 ガチャン。
「ちぇっ」
 弾切れでした。
「こっちの銃を使えばいいわ」
 彼女が落とした銃。わたしは操作方法をよく知らないので、自分の銃を捨てて、それを拾おうとしたとき、彼女に背後から蹴られてつんのめり、濡れた草に顔をぶつけるように倒れてしまいました。
 起き上がろうとすると、取ろうとした銃が、わたしの顎に押しつけられていました。
「バカね。さっきはわたしも殺されてもしょうがないと思ったけど、いまは違う。わたしは生まれ変わったの。おまえと健介は、あの狂った教団を支える能力を受け継いでいる。だから死ね!」
 ユキコが片手で撃とうとしたとき、わたしは足が彼女と絡んでいることに気づいて、思いきり蹴り上げました。
 銃声で耳が聞こえなくなったのですが、幸い、わたしには当たっていません。ざまーみろ。
 そしてもう一蹴り。片手持ちの銃を蹴っ飛ばすと、それがユキコの顔面にぶつかったのです。
 立ち上がったわたし。
 倒れたままのユキコ。左手はぶらぶらしています。小向兄弟のおかげです。それ以外にもダメージは大きいようで、健介と戦ったからでしょうか。
「健介は?」
 口を切り、歯が折れたのでしょうか。鼻血も出ています。それがヘラヘラしているようにも見えます。
 おそらく、このまま放っておいても死ぬでしょう。
 わたしは、銃を取り上げ、彼女が腰に巻いているベルトも取り上げました。武器を隠しているとしても、もう、大したことはできないでしょう。
 健介を探しました。
 ロケット弾で直径1メートルほどの穴の開いたところからさらに数歩離れたところにいました。
 うつ伏せになっているので、服を掴んで仰向けにしました。顔の半分がなくなっていました。後ろから撃たれたみたいです。
 激しい怒りを感じましたが、いまはそれを発散するのではなく、自分の中に蓄えておこうと思いました。
「ミユキ」
 橋妻光陽がいました。彼が近づいてくることにまったく気づきませんでした。道路には屋根を取り付けたあのバカバカしい派手なクルマがあって、彼女が運転席にいるようでした。
「行くぞ」
「どこへ?」
「新しい拠点だ。あそこはもう使えない」
「嫌だと言ったら?」
 彼はちょっとだけ口をへの字にしました。
「そう言うかもしれないと思っていた」
「じゃあ、行かない」
「わかった。元気でな。それを捨てろ。荷物を渡す」
 彼とクルマに行くと、トランクからリュックとトートバッグを取り出しました。「これは着替え」
 トートバッグには新しい服が入っているようでした。リュックはものすごく軽く、外のポケットにペットボトルの水が入っています。
「ハイキングということで通せよ。あと、ヒッチハイクはするな。この道を2時間歩くと駅に出る。駅に出ればあとは自分で考えろ」
「はい」
「おまえには、2つの要素が入っている。1つは『いいなりドール』の要素。誰かに捕らえられたら別人格にされてしまう可能性がある。もう1つは『魔身矢塚』の魔の部分。強運の持ち主だ。いいなりになるな。運を生かせ」
 オヤジはそう言い残して、女と去っていきました。
 駅まで送ってくれればいいのに、と思いました。
 雨は上がって、ものすごいスピードで流れていく雲を見上げ、いまにもユキコは死んでいくであろう草原をチラッと見て、そこに誰も立っている姿がないことを確認すると歩き始めました。とりあえず着替えができるところを探すのです。
 いいなりになるな。運を生かせ。
 つくづくだな、と思いました。

 お読みいただきありがとうございました。「いいなりドール」は今回で完結です。この続きを書くかどうかはまったく考えておりません。エロそうな設定からどこまで遠いところまで行けるか。そういう物語を書いてみたいと思ったのです。そこそこ遠くに来ることができたと思います。このあとミユキがどのような人生を送るにせよ、それはみなさまのご想像のままにと思います。次回からは、フツー小説ながらも基本はエロな物語をお届けしようと思っています。あんぷらぐど(荒縄工房)


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1970年代からのSM小説を読み、書き。「仲ゆうじ」などのペンネームで「SMセレクト」などに小説を書かせていただいておりました。
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