奴隷未満(期間限定Ver) 3 外してやってもいいけど
「うわー、ホントかー。すごいな。うれしいなー」
喜びを表現するのが下手な男です。どの言葉にも真実みがない。
「わたしでいいんですか?」
「もちろんですよ! ぼくは内村総治。そこの大学の二年です」
「岩見万結です」
「万結ちゃんかー。店長に報告しなくちゃ!」
「え?」
「いえ、ずっと声をかけようかどうしようか、迷っていたんですけど、オーナーも店長も『さっさと声をかけろ』って言うもんだから……。いやー、すごいな。うれしいな」
彼はバクバクと食べると、コーヒーを飲み、慌ただしくメールと電話番号を交換し「特別にデザート持って来ますから」と言って、自分の食べた皿などを持って下へ降りていきました。
わたしはまったくドキドキもせず。
ただ一緒に芝居を見に行く体験がしたいと思ったのです。生まれてはじめてのナンパの記念に。それが、どんなにつまらない芝居だろうと。
このお店に来るのが面倒になっちゃうかな。
それが少し寂しいですけど。
「いらっしゃいませー」と張り切っている彼の声がします。そしてギシギシと階段が鳴って二階に人が来ます。ランチタイムから三時のお茶タイムへ。
開店から五十年ぐらいの歴史がある店で、このままいけば地域の歴史的建造物に指定されるらしいです。
なんだか圧力を感じて、ふと見ると、そこに貴史様がいました。女性と一緒です。女性は学生ではなくて、大人の女性。高そうなワンピース。清楚で、足がすらりと長いのです。
きれいな女性です。
「ここならすいているからいいだろう」
「はい」
あっ。
声を殺すのが大変でした。
だって、その女性が長い髪を手で払うと、長く美しい首に赤い首輪がついていたからです。
ドキンとしました。
「おまえ、そこに座るのか?」
「すみません」
女性はきれいな姿をしているのに、イスではなく、床に正座をしました。
「なんで来たんだ」
ピシャっと音がしました。なにをしたのか、あまりのことに理解できませんでした。貴史様が、彼女の頬を平手で叩いたようです。
「ごめんなさい」
痛みに耐えてややうつむいた彼女。
「みっともない姿を見せて、おれを困らせようっていうのか?」
「ちがいます」
「口を開けろ」
「はい」
彼女は上を向いて口を開けました。
キスをするんだと思ったら、接触はせず、ツバだけを垂らしたのです。
なんということ……。
「ありがとうございます」
彼女はごくりと飲み干してうれしそうな顔をしています。
あんなきれいな人が……。
総治君がエプロンをしてお盆を持ってやってきました。テーブルに水のグラスを置きます。
「ご注文は?」
「カレーのセットを一人前。それとアイスコーヒーを一つ」
総治君はちらっとわたしを見て、ニッコリして降りていきました。
彼は気づいていませんが、この瞬間にも、わたしの求める世界と、総治君が描いている世界があまりにも遠いことがはっきりしたのでした。
あの床に正座して貴史様の唾液をいただくのが、わたしだったら……。
妄想に過ぎませんが、くらくらしてしまいます。
貴史様は、奴隷をあんな風に扱うのです。
うー、ダメだ。ダメだわ。すごすぎる。わたしなんか、とてもムリです。あんなきれいな女の人を奴隷にしているのだから、わたしなんて資格もないのです。
カレーセットはすぐできるので、総治君はほとんど間を置かず戻って来て、ちょっと奇妙な雰囲気をかもし出す貴史様のテーブルにそれを並べました。
そしてわたしのところへ来ると、「サービス」と小さな声で言ってバニラアイスの上にオレンジのシャーベットを重ねたものを置きました。
さらに、わたしに手で「電話する」と合図。
わたしは、こくりとうなずきました。メッセージでもいいんですけど。
いま、二つの道が見えています。一つはいますぐ手紙を貴史様に手渡す。それによって、もしかしたらとんでもないことになる(いろんな意味で)。もう一つはアイスクリームを食べたらおとなしく店を出る。そして総治君に電話する。またはメッセージのやり取り。
総治君がとんでもない変態で、わたしを犯して殺すかもしれませんが(妄想はすぐ極端になるものです)、その確率はすごく低い。
一方、貴史様が、わたしの手紙を受け取らない確率は極めて高い。しかも彼女がいる前ですから。
アイスを食べていて、貴史様がカレーを食べている姿をチラチラ見ていました。彼女は黙って正座を続けています。
奴隷はご主人様の前ではいつもあの姿勢なのでしょうか。
彼女のために追加したらしいアイスコーヒーですが、手をつけません。
「で、なんだって?」
貴史様が言います。口の中でカレーライスを噛みながら。
「申し訳ありません。どうしても鍵をお借りしたくて参りました」
「なんで?」
「おトイレに行きたいのです」
「この時間はダメな時間だろ。ガマンしろよ」
「今日は体調のせいか難しくて、どうしても……」
見れば、彼女はうっすら汗ばんでいるようです。
トイレの許可がいるのです。ご主人様にお願いしないとトイレに行ってはいけないのです。
「じゃあ、外してやってもいいけど、この場でだぞ。この店のトイレを借りるんだ」
「は、はい、ありがとうございます」

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