インサイドアウト 第一話(その4) 犬釘
「最悪の事態とならないようコントロールしますが、基本は成り行き任せになります。それでいいですか?」
「はい」
「ふう」と彼はユニットバスを眺めてため息をついた。トイレとシャワーだけだ。浴槽はない。そもそも風呂なしで設計された部屋に、あとから無理やり取り付けたもので、それも二十年以上前のことだろう。
「いいんです、汚いままで」と真津美は言う。
「なるほど」
真津美は以前に使っていたスモックワンピースはもう捨ててしまっていたので、似たような古いワンピースを着ていた。茶色っぽいのだが、部屋の中では黒く見える。
「明日の昼まで、二十四時間ってところか」
「はい」
段ボールに缶やペットボトルの飲み物、酒、ハイボール、スナック菓子などが大量に入っていた。
「手を出してごらん」
子どもにお菓子でもやるように言う柏田。真津美は素直に手を出す。手の平を上に向けて、手相でも見ようというのか、がっちりと両手首を掴む。細い女の手首だ。柏田の手は大きい。その左手だけで彼女の両手首を重ねて握る。
「な、なに?」
ガチャリと音を立てて、手首に黒い艶消しの手錠が食い込んだ。その手錠に、柏田は黒い鉄の杭のようなものを通した。
「こうしてあげましょう」
足をかけて仰向けに真津美を倒し、畳の上に寝かせる。
左右の手錠の鎖はほとんどないほど短く、そこを通した杭を畳へグサッと刺し、いつの間に用意したのか、大型の金槌でガンガンと打ち込んだ。
真津美は柏田の平然としたその姿もさることながら、ここに手錠や金槌などの道具を持ち込んでいたことにショックを受けていた。
こうして殺されていくんだ──。
これまで死体となって発見されている女性たちをネットニュースなどで知っても、自分のこととして考えたことはなかった。
「犬釘ってやつです。その姿勢じゃ、抜けないですよ」
手は頭の上でびくともしない。
叫ぼうと口を開いたとき、待っていたように黒っぽい布が押し込まれた。
「よーく、味わってください。あなたのために一週間も履いていた靴下ですからね」
柏田の靴下を口に押し込まれ、その気持ち悪さと臭さに、吐き出そうとするが、なぜかできない。彼の手が押さえつけている。その手が一瞬離れた。
しかし真津美はなにもできなかった。男の手は、イヤな臭いのする粘着テープにとって代わった。念入りに口を塞ぎ、顎までテープを貼り付けられてしまった。小刻みに動かし続ければ、いつかは唾液などで粘着性も弱まり、外れていくかもしれない。だが、それまでになにをされてしまうのか。
「へえ、いいですね」
男は巧みだった。体重をかけて足の動きを封じながら、足首もサドルバンドと呼ばれるパイプを固定する金具と犬釘で畳に打ち付けていく。
腐って柔らかい畳とはいえ、それを突き通ってしまうと真津美にはなにもできなくなった。畳には真津美と柏田の体重がかかっているので、少し揺らぐ程度なのだ。足の筋力は大きいので、膝を曲げて思いきり蹴れば外れただろうが、そもそも柏田は、百八十度近く真津美の足を開いて打ち付けたので、うまく力が入らない。
「痛いか? 体、柔らかいよね」
別荘で彼女の肉体を味わって、柏田はその柔軟さを知っていたのだ。
服はへそまでまくられ、肌が剥き出しになっていた。ワンピースの下は全裸だ。
「いい眺めですよ」
男は一眼レフのカメラを手にし、念のためなのか、趣味なのか、真津美の目に細く黒い布をあてて縛ってから撮影をした。
それは黒いパンストだった。光は通るが、ほとんどなにも見えない。
「こんにちは」
別の男の声がした。聞き覚えがない。
「ああ、ちょうどよかった」と柏田がそちらへ行く。玄関に大勢の人の気配。靴を脱いでいる。タバコ臭、体臭がいっきに部屋を満たしていく。
声は出せないが、真津美は「ああ、これだ」と感じた。このむせるような男たちのニオイ。すえたようなニオイ。風呂にあまり入っていないのか。汗や皮脂や頭髪につけたなにかだろうか、さまざまなニオイが真津美を熱くさせる。
「へえ、すげえなあ」
笑い声。男たちに見られている。
「ゆっくりやってください。いまは元気がいいからこうしているけど、そのうちぐったりしてきたらまたやり替えますから」と柏田が説明している。
「それから、余興として、これね」
真津美は冷たく固いロープが首に二重にかけられたのを感じた。やっぱり殺されるのだ。
ぐっと首が絞まる。最初は皮膚が捻れてそれがピリッと痛かったが、やがて息ができなくなり血液も止まる。
「一分ね。一分以上はやめてくださいよ」
へらへらと笑いながら返事する男たち。三人とか四人ではない。もっと多いようだ。
布が擦れる音がし、ニオイがさらに濃くなっていく。ズボンや下着を脱ぎはじめた。
「そこにシャワーとトイレがあるけど」
トイレを使う者はいても、シャワーはいない。
首を絞めながら犯されるのだ。見ず知らずの汚い男たちに。
そう気付いたとき、真津美はのけぞった。これまでにない熱さに、早くも溶けてしまう。
ハサミでザクッザクッと服を切られていく。男たちの口臭も酷い。その口がいま、剥き出しにされた乳房に向かっている。腹部も、太ももも、そして聖域にも……。
べちゃべちゃと舐める音。甘噛み。乳首を引っ張られる。吸われる。クリトリスを舐められ、いじられる。
精液を注がれるよりも、その臭い唾液を注がれるほうが、真津美には恐ろしく、かつて感じたことのない屈辱だった。屈辱もまた熱さになることを知った。
これはひどい、いくらなんでも、こんな状態で殺されるなんて……。
飽きてきたからといって若鮎の会で満足していればよかった。もちろんそれだって危険だったはずだ。
しかしこの熱さはなんだろう。いままで感じたことのない溶ける熱さ。
「じゃあ、いきますよ」
男たちがジャンケンをしている。「ああ、負けたー」とか「おまえの腐ったチンポのあとはイヤだよ」などと笑いながら騒いでいた。年齢はかなり高いかもしれない。
「よーし、じゃ、オレ様のぶっといのを入れやろう。悪いな、おまえら。すぐガバガバになるぜ」
「バーカ、そのための首締めだろ」
「なるほどな」
そんなことを言いながら、汚い唾液で濡らされた陰部に、男は無造作に指を入れてきた。
「おお、熱い熱い! 待ってろよ。天国に行かせてやるぜ」
ゲラゲラを笑う男たち。
そしてそれが入って来た。

★妹は鬼畜系R★

Kindle版はこちらへ
DMM.R18版はこちらへ
DLSite版はこちらへ前作「妹は鬼畜系」で、トーメンターのマイア様に心酔したケイ。新しい「おにいちゃん」を手に入れたケイは、少しずつ「ぼく」を引きずり込み、逃げられない状態へ。「トーメンター」を目指す!
★妹は鬼畜系★

Kindle版はこちらへ
DMM.R18版はこちらへ
DLSite版はこちらへ
義理の妹に調教される兄「ぼく」。義妹のケイに、さらに義母に調教される。男の娘として男性たちのオモチャに、トーチャー・クラブの生け贄として拷問へとエスカレートしていく。コメディ要素あり。
★隷獣 郁美モノローグ版★

Kindle版はこちらへ
DMM.R18版はこちらへ
DLSite版はこちらへ
女子大生がケモノとして飼育される 山ガールを楽しんでいた郁美は、同級生の有希恵に「隷獣」としての素質を見出され、山小屋でケモノに堕ちるための調教を受けるのだった……。伝奇SM小説『隷獣』は、郁美のモノローグに書き改められ、ブログにはない結末が追加されています。

今日のSMシーン